SGT2014 基調講演2 「組織にアジリティを取り入れる – どうすればアジャイルになれる?」

1日目の基調講演 に続き、2日目の基調講演もメモします。

スピーカーの Jutta Eckstein 氏はもともと教師であり、その後 IT 業界に入って製品開発を通じてアジャイルプロセスを身につけました。今回の講義では、アジャイルを組織に導入する方法と変化のモデルについて、明晰な分析と的確なアドバイスをされていました。

アジャイルを組織に導入するための2つの典型的なアプローチ

ゲリラ型

自分でこっそりプロジェクトをアジャイルプロセスで回す方法。成功した後に「実はアジャイルなやり方でした」とネタばらしすることで、実績と共に導入を促すことができる。(Mike Beedle が初めてスクラムを実践した時と同じ方法)

このやり方は、マネジメント層が関与しないと成功しづらい。出来る限り顧客と PO を巻き込むようにしよう。

最高司令型 (Supreme Command)

組織上層部からトップダウンで「アジャイルをやろう」と命令して実施する方法。

ボトムアップで広める場合と比べると、組織全体でオープンにやれるという点ではやりやすいが、一方で以下の難点もある。

  • 役割、組織、構造が限定されてしまうことが多い。
  • チーム自身がやり方を決めるわけでは無いので、自己組織化が難しい。アジャイルマインドと矛盾する。
  • 管理職が権力を発揮すると、開発者が考える透明性に対してケチが入りやすく、信頼が確立しづらい。
  • 開発のプラクティスを強制されることが多い。強制されたものは維持しづらい。

いずれの場合でも、何よりまず全員が参加すること。特にふりかえり。

アジャイルに移行すると変化が起きる。本当に変化するのは個人。

変化のモデル

Elisabeth Kübler-Ross モデルVirginia Satir モデル がある。後者は 『Fearless Change アジャイルに効く アイデアを組織に広めるための48のパターン』 に素晴らしい解説がある。

アジャイル導入直後に時間と共に起きること

  1. まず混沌とする。多くの人は放棄したくなる。
  2. 時間と共に「やっぱりあの考えは使えるんじゃないか」という別の見方ができるようになり、良さに気付く。
  3. うまくいけば、新しい考えが受け入れられ定着する。

なお、現場は常に変化しており、様々な変化のカーブが同時並行で存在していることも多い。同僚はアジャイル以外でも変化しているかもしれない。同僚がこのカーブのどこにいるか特定できれば、適切なサポートができるかもしれない。

痛みが変化をサポートする

痛みがある現場 (=不満があちこちにある職場) の方が変化を受け入れやすい。「もっと良いやり方があれば試したい」と思っているから。しかし、実際にやってみると誰も変化を受け入れる体制が整っていないことも多い。

また、「新しいやり方を導入すれば新しい問題が生じる。何も良くならない。変わらない。」と言う人も多い。

懐疑的な人が多いのは良いことである。情熱的な人しかいない方が危ない。見落としを多くしたり、必要ないことや組織に害となる考え方もする可能性があるので。

いずれにせよ変化を始めたら、人々が感じている恐れや希望などの様々なことをふりかえりで確認し、吸収しなければならない。

パイロットプロジェクトの落とし穴

※パイロットプロジェクト=試験的にプロジェクトをアジャイルでやること。

本格的な導入の前に試しに実施されることが多いが、落とし穴がある。意欲のある優れた人材だけを集めたり、リスクの少ない簡単な案件で実施しても、「こんなベストな人材でこんな低リスクな案件なんだから、成功するのは当たり前だ」という評価に終わってしまうことが多い。

したがってパイロットプロジェクトは、「普通の案件」で、「普通の人達」を、「普通のサイズ」で関与させた方が良い。

アジャイル導入スケジュール

アジャイルを導入するためには以下のことを順序だってやると良い。

この際、3つのロールが必要になる。

  • プロジェクトリーダー
  • 情熱のあるチェンジ・エージェント
  • アーキテクト / 技術リーダー

意識付け

会話や読書を行い、アジャイルの進め方を伝播しておく。

Readiness/Enabling ワークショップ

アジャイルを実施する際の困難や解決策を議論するワークショップ。以下のことを話し合う。

  • これまでにやったことは?
  • 簡単にできることは?
  • 適用が難しいことは?
  • 絶対に不可能なことは? (会社や文化によってはできないこともある)

難しいことが見つかれば、以下のことも議論する。

  • それを簡単にするにはどうすればいいか?
  • それを変えることで良い効果を得られるか?

ふりかえり

プロジェクトで行う。どうやって変化を起こしてきたのかをふりかえり、将来について話し合う。具体的には次のような内容。

  • うまくいったことを、どうやって次のプロジェクトに活かすか?
  • 何が障害になっていたか?何を変えたほうがいいのか?

継続的に学ぶことで、必然的にアジャイルになってくる。

重要なのは、アジャイルを実施する人たちがふりかえりのオーナーとなること。外部のコーチがやり方を教えるだけでは意味が無い!現場の人たちが自己組織化し、自分たちで次に何をやるべきか決められるようにならなければならない。

なお、「グッドプラクティスを集めても意味がない」と言う人がいるが、それは間違い。どこかの組織で成功したことにはヒントがある。

学びのステップ: 守破離

  • 守: 型を守る。学んだ通りのやり方をやってみる。
  • 破: ふりかえりによって、意味や目的や効果を確かめる。不必要な部分も見えるかもしれない。
  • 離: 独自の背景をベースにしたやり方ができるようになる。アジャイルになるためには、全員が「離」のやり方にならなければならない!

特定のレベルに達することができないと物事は変えられないかもしれない。アジャイルを本当に適用するためには、独自のアジャイル手法を考えなければならないかもしれない。

トレーニングをカスタマイズする

サンドボックスで学んだやり方では、すぐに現場で実践に移せない。カスタマイズしたトレーニングを実施し、現場に則したやり方を習得したほうが早い。例えばデイリースクラムは、実際のプロジェクトですぐに実施して学べる。

モニタリングとコーチング

アジャイル導入には、社内に高い情熱を持った人が必要。変化の過程では必ずアップダウンがあるため、ドライバーとなるチェンジ・エージェントがいるべき。彼には次のような素質が求められる。

  • 困難を直視できる
  • 実践もサポートできる
  • アジャイルの変化を深く信じている

なお、組織外部のサポート役 (メンター) がこの役割を担うことはできない。必ず内部に必要。

変化を維持するためにやること

  • 社内にコーチを作る。
  • 新人をメンタリングする。
  • 成功したら(成果を上げたら)必ずお祝いをする。
  • 絶えず学び続ける。守破離の「離」のレベルに達すること!

まとめ

  • 変化は絶対にスムーズではない。カオスの中を通過する必要がある。
  • ふりかえりは気づきを生み出す。継続的な進化につながる。
  • ワークショップで全員に気付きを与えよう。
  • カスタマイズしたトレーニングで実践力を与えよう。
  • チェンジエージェントが全てをサポートする。

質疑応答でも素晴らしい討議が行われていたので、別ページに書きました。↓

Jutta Eckstein への質問