SGT2014 基調講演「エンタープライズ・スクラム: 企業活動にスクラムを」

1/14~1/15にかけて行われた Regional Scrum Gathering Tokyo 2014 に参加してきました。素晴らしいアイディアを数多く得ることができました。

自分の知識の整理も兼ねて、その幾つかを共有します。

(↑Mike Beedle と撮った記念写真)

まずは1日目に行われた、Mike Beedle 氏による基調講演です。

Mike は2001年から New Governanace 社 の CEO としてエンタープライズスクラムを実践しており、全てのビジネスプロセスをスクラムで実践しています。講演ではその効果とやり方を解説されました。

以下に印象に残ったフレーズをメモしておきます。

金言と苦言

「唯一変わらないのは、変わること、変わり続けること、変わることは避けられないことである。これが今の社会を支配している要因なのだ。」

— アイザック・アシモフ

必ずしも変わる必要はない。生き残ることは強制ではないから

— エドワード・デミング

売上の大半は新製品から生まれている

Product Development Institute Inc. (プロダクト開発のコンサル会社) が2012年に発表したレポート によると、ビジネスの利益の比率は驚くべき結果となっている。

平均すると、3年以内に作った新製品が売上の27.5%を占めている。トップ20%企業ではその割合は38%になり、利益の42.4%が新製品から得られている。さらにトップ20%企業の「5年間の新製品からの利益率」を見ると、収入と利益のほぼ70%は新製品から生まれている。

つまり、現代では売上の多くは新製品から生まれている。逆に言うと、新製品が生み出せない場合は利益が確保できない。

スクラムは会社の素早い変革を可能にする

勝者はイノベーションを、より速く、より効率的に生み出している。利益と収入は、イノベーションの速度と効率性と柔軟性に直接リンクしている。Nokia, Motorola などはこの点で成功できなかった。

スクラムは高い利益を得るための、素早い変革を可能にする方法である。

エンタープライズスクラムとは?

パラメータ化されたスクラムの包括的な応用。様々なビジネス環境で利用できる。

1993年に Jeff Sutherland が組織パターン (by Jimm Coplien) と包摂アーキテクチャ (by Rod Brooks) を組み合わせて作り、実践した。

2012年に Standish Group が発表した The CHAOS Manifestoを見ると、「プロジェクトの成功率」は、ウォーターフォールが14%なのに対して、アジャイルプロジェクトでは42%に達している。

伝統的な手法では分割されていた多くのプロセス (戦略設定、マーケティング、製品開発、フィードバック等)は、スクラム(type C Scrum) においては全てが内包され同時に実行されるようになっている。また、組織体系も「戦略部署」「マーケティング部」という分け方をせず、プロダクト毎に機能横断型なチームを作っていくようになる。

今は分離して行っているプロセスも、これからの世界ではすべてを同時に行う必要があるのだ。

エンタープライズスクラムは既に数千の実績がある。IT業界だけでなく、監査、保険、製薬業界など多岐にわたる。

スケーリング

スクラムチームは再帰的スクラム (Scrum of Scrum または Scrumbrella) によってスケールする。

スクラムチームが増えたら、階層バックログを作る。上位のバックログアイテムを個々のチームにアサインし、それぞれのチームでそれをブレークダウンしたバックログを作る。デイリースクラム等で同期を忘れずに行うこと。

入れ子の改善サイクルを使って、常に改善すること。具体的には、年単位、四半期単位、月単位、週単位のふりかえりを行う。

リリース計画作りには大部屋 (関係者一同が同じ空間に集う) が有効だが、チームの人数が増えると困難になる。従って、ハイレベルリリース計画とローレベル計画に分けて、必要な人だけで行うようにすると良い。

計画ができた後の見積もり方法は、ただのスクラムと同じ。

なお、ベロシティはチームごとのローカルベロシティと、全チーム合計のグローバルベロシティの2つを測定すること。この2つのベロシティを使って、スプリント毎に納期とスコープの再見積もりを行う。

大胆な予言

エンタープライズスクラムは、2020年までにデファクトスタンダードになり、Global 5000 企業の80%が採用するだろう。これは数年前から Jeff と野中郁次郎が述べている。


密度が非常に高い講演でした。特に印象に残ったのは「5年間の新製品が売上の70%を占めている」という数値です。イノベーションを生み出せない企業が困窮していく根拠がわかりました。

エンタープライズスクラムについては前知識がありませんでしたが、この講演で概要を掴むことが出来ました。組織は Scrum of Scrum でスケーリングしつつ、多くのパラメータを使ってビジネスを計測し、方針決めに使うようです。このパラメータは発表資料には大量に書いてあるのですが、具体的にいつどうやって使うのかピンと来ませんでした。後で調査してみます。

なお、講演後の質疑応答も非常に良い内容だったので、Mike Beedle への質問にまとめました。